[本]フラット化する世界(上)

「日本は中国を植民地化したことがあるから、対日感情がよくないのではありませんか?」
まあそうだ、と大前は答えた。しかし、そのため日本語を話す中国人も多く、中国北東部---ことに港湾都市の大連などには、日本文化も多少は根強く残っている。寿司やカラオケも流行っている。アメリカをはじめとする英語圏諸国にとってのバンガロールと同じように、大連は日本のアウトソーシングの中心になっている。中国は前世紀の日本の所業をぜったいに忘れないかもしれないが、次の世紀に向けて世界をリードすることに力を注いでいるから、中国人は日本語を勉強して日本からのアウトソーシングを引き受ける意欲が充分にある、と大前は説明した。

ビジネスウェブは、ジャスティン・リウのような中小ビジネスにたずさわる者が、数年前だったら大企業しか手に入れられなかったようなビジネスツールを手に入れるのを簡単にした。また、ビジネス用ソフトウエアの供給者の力の均衡に、過激な変化を引き起こすような環境をこしらえた。当然、次の段階では、ビジネスウェブはビジネスサービスの場でeベイに似た存在に発展するに違いない。

創世記:フラットな世界のプラットフォーム現わる

まずベルリンの壁が崩壊し、ウィンドウズが開き、パソコンが普及した。それらが重なって、個人が自分のコンテンツを作り上げてデジタル化することが、これまでになく簡単になった。インターネットがひろまって、ウェブの時代が始まり、ブラウザや光ファイバーのおかげで、人間同士の結びつきがいまだかつてないほど広がった。従来では考えられなかったようなわずかな費用で、デジタル・コンテンツを互いに楽しめるようになった。最後に、標準化された送信パイプとプロトコルの登場により、だれでもコンピューターやソフトウエアを互いに接続できるようになった。また、ビジネスプロセスの標準化の発展を促し、特定の商取引や作業手順のスタンダードができあがった。つまり、さらにより多くの人々が切れ目なく結びつき、よそのデジタル・コンテンツについてむらなく共同作業を行うのが、これまでになく楽になった。

世界をフラット化した一〇の力

フラット化の要因1 ベルリンの壁崩壊と、創造性の新時代
フラット化の要因2 インターネットの普及と、接続の新時代
フラット化の要因3 共同作業を可能にした新しいソフトウエア
フラット化の要因4 アップローディング:コミュニティの力を利用する
フラット化の要因5 アウトソーシング:Y2Kとインドの目覚め
フラット化の要因6 オフショアリング:中国のWTO加盟
フラット化の要因7 サプライチェーンウォルマートはなぜ強いのか
フラット化の要因8 インソーシング:UPSの新しいビジネス
フラット化の要因9 インフォーミング:知りたいことはグーグルに聞け
フラット化の要因10 ステロイド:新テクノロジーがさらに加速する 

アップローディング:コミュニティの力を利用する

個人やコミュニティが、営利企業や旧来のヒエラルキーから受け身にダウンロードするのではなく、自分たちの製品をアップロードして、それもしばしば無料でひろめるというこの新たに見出された力は、想像力、イノベーション政治勢力の結集、情報の収集と流布の流れを、根本的に作り変えた。そうした事柄を、独占的なトップダウンからボトムアップに変え、グローバルには横並びの現象にした。従来の企業や機構の内部だけでなく、その外でもそれが起きている。アップローディングがフラットな世界で最大の革命的な共同作業の形態になりつつあることは間違いない。いまやわれわれは、ただの消費者ではなく生産者にもなれるのだ。