国家の品格

図書館で予約して読んだ。

カルヴァン主義と資本主義
ロックがこんなことを言い出した背景には、十六世紀の宗教改革に始まったプロテスタンティズム、中でもカルヴァン主義があります。カルヴァン主義の最大の特徴は、カルヴァンが著書「キリスト教綱要」の中で展開した「予定説」です。救済されるかどうかは、神の意思によりあらかじめ決められている、という説です。救済とは、神の国で永遠の生命を与えられるということです。人間がどんな善行を重ねても、どんなに人格を磨いても、どんなに高い地位についても、どんなに教会に寄進し、祈りをささげても、救済されるかどうかには無関係ということです。
教会の権威を否定しようとするあまり、ここまで行ってしまったのでしょうか。・・・・・
ロックが「個人は快楽を追求してよい、全能の神が社会に調和をもたらしてくれるから」という重大発言をしたのは、まさにカルヴァン主義にある予定説の流れの中だったのです。ロックを「近代資本主義の祖」と言ったのは、所有権や財産権を確定したことだけでなく、この重大発言のためでもあります。

四つの愛

この懐かしさという情緒は、私の呼ぶ「四つの愛」の基本になります。「四つの愛」とは何かというと、まず、「家族愛」です。それから「郷土愛」、それから「祖国愛」です。この三つがしっかり固まった後で、最後に「人類愛」です。
順番を間違えてはいけません。家族愛の延長が郷土愛、それら二つの延長が祖国愛だからです。日本ではよく、最初に人類愛を教えようとしますが、そんなことがうまく行くはずがありません。「地球市民」なんて世界中に誰一人いない。そんなフィクションを教えるのは百害あって一利なしです。まずは家族愛をきちんと整える。それから郷土愛。それから祖国愛です。このうちのどれかが欠けていたら、世界に出て行っても誰も信用してくれません。

「戦争をなくす手段」になる

最後の六番目は、美しい情緒は「戦争をなくす手段」になるということです。論理や合理だけでは戦争を止めることはできません。これは歴史的に証明されております。古今東西、いかなる戦争においても、当事者の双方に理屈がありました。自己を正当化するために、論理はいくらでも作り出せます。出発点の選び方によって、いかような論理を組み立てることも可能だからです。実際、歴史を振り返ると、論理とは「自己正当化のための便利な道具」でしかなかったことを思い知らされます。

天才の出る風土

それで、多くの天才を調べてみると、天才を生む土壌には三つの共通点があることに気づいたのです。

第一条件「美の存在」
その第一は、「美の存在」です。美の存在しない土地に天才は、特に数学の天才は生まれません。・・・・・

第二条件「跪く心」
第二の条件は、「何かに跪く心」があるということです。
日本の場合は神や仏、あるいは偉大な自然に跪きます。南インドにはヒンドゥー教のメッカのような場所があり、人々はヒンドゥーの神々に跪いています。

三条件「精神性を尊ぶ風土」
第三の条件は、「精神性を尊ぶ風土」です。役に立たないことをも尊ぶという風土です。文学、芸術、宗教など、直接に役に立たないことをも重んじる。金銭世俗的なものを低く見る。そういう風土です。

三条件を満たしている日本
それでは日本はどうでしょうか。この三つの条件を見事に満たしています。まず、日本には美しい自然がある。第二に神や仏に跪く心がある。それから三番目に、役に立つものとか金銭を低く見る風土がある。
武士道は正にそうです。だから、「武士は食わねど高楊枝」で我慢していたわけです。室町末期に日本に来たザビエルがこう書いています。「日本人は貧しいことを恥ずかしがらない。武士は町人より貧しいのに尊敬されている。」ヨーロッパ人の感覚では特筆すべきことなのでしょう。貧富と貴賎は無関係、というのは今も日本に残る美風です。