痴呆性高齢者のこころと暮らし

「痴呆老人は何もわからない人」という誤解と偏見

このように、痴呆老人たちは自分のことや周囲のことをよくわかっていた。それは痴呆がかなり進行した状態でもそうであった。

四つ目は「デスメーキング」

縛らずに介護をするようになって、老人病院への転院が減った。以前、車椅子に縛られた人は、すぐに歩けなくなった。ベッドに縛られた人は、しばしば、肺炎や腸閉塞を併発した。一晩中仰向けにさせられて、不顕性の誤えんを繰り返していたのかもしれない。モゾモゾできないから腹筋も萎えて、便秘になったのだろう。病棟の4人に1人をベッドや車椅子に縛っていた頃、縛られた人の衰弱は早かったように思う。
ヴォルフェンスベルガーはデスメーキング(death-making)というショッキングなことを言っている。「直接的にしろ、間接的にしろ、個人やグループの死をもたらしたり、早めたりするすべての活動、あるいは活動の形態」のことだ。そしてどの社会にも、障害者という価値を低められた人々に対して、このデスメーキングの仕組みが普遍的に用意されているという。
私たちはまさにデスメーキングを行っていたのではあるまいか。これが縛るのをやめてからようや気づいたことの、一番辛いことだ。