ウェブ人間論

平野:
僕は、ネットの世界の拡充によって到来した「一億総表現者時代」というのは、非常に刺激的なことだと思っているんです。今まで出版社と一部の作家といわれる人たちにだけ寡占されていた「書く」という表現手段が、一気に、しかもただ同然で、誰にでも開放されたということはやっぱり画期的だと思います。

匿名社会のサバイバル術

梅田:
ブログで日記を公開するという前提になった時に、リアル社会との連続性を持たせるか持たせないかという選択肢がありますが、日本の場合は社会に自由度が少なくて、むしろリアルな社会のほうで仮面をかぶって生きざるを得ないという感じがある。アメリカやヨーロッパのほうが、組織に属していても個として自由なことができますから。

梅田:
逆に、商品名みたいな新しい言葉を思いついたときは、検索で引っかかってほしいと思う場合もありますよね。そのときは、空いているスペースを探すという方法があります。僕は自分の本のタイトルを、グーグルで空いているスペースから探してつけるんですよ。「ウェブ進化論」も空いていたんです。
・・・
グーグルで「ウェブ進化論」って検索しても、僕の本が出版されるまでは、二十件位しか検索結果がでなかったんです。「ウェブ」と「進化」ってありそうなんだけど、組み合わせたのはなかった。それで、あ、このスペースを俺は取るぞと思ったわけです。特許を取ったわけじゃないけど、実質的に「ウェブ進化論」というタイトルは空いていた。小説だとタイトルは比較的固有になるからいいんでしょうけど、僕のような評論ものだと、タイトルのつけ方ってすごく難しいんです。「シリコンバレー精神」というタイトルもいろいろ検索して調べたら、これが空いていた。それで決めました。
・・・マーケティング的な言い方になっちゃうんだけど、そういう工夫をしながら検索エンジンと付き合っていくのが、これからの時代を生きる術の一つだと思います。

人間はどう「進化」するのか

梅田:
実はこの間、将棋の羽生善治さんと話してて、「僕はもう四十五歳で、ピークを越しているかもしれないって思ってたけれど、最近はこれからもっと頭がよくなっていくかもしれないなって思う時があるんですよ」って話したんです。そしてら彼は、「だってインプットの質がよくなったんだから、当たり前じゃないですか」っていきなり言うんですよ。確かにネットの中に住むようになってから、それこそ物理的には一人でいるんですけど、ネットの向こうの人たちと偶発的な出会いがある環境の中に身を浸しながら、読んだり、考えたり、書いたりしているという時間がすごく長くなったんですね。ネットにつながらない状態で一人で、「よし、朝から十時間勉強して読んで書こう」なんていっても、途中で飽きちゃうんだけど、ネットでつながっているといろんな刺激があるから、気がつくと八時間経っていて、昔よりもずいぶん脳みそを使ってるわけです。