ケータイ世界の子どもたち

ケータイの負の側面ばかりを述べるものと予想して読んだ。しかし、千葉大学教育学部准教授の筆者は、ケータイの負の側面ばかりでなく、子ども社会の「同調圧力」に着目して、早い段階で個性を活かす方向の授業をすべきと提言している。ケータイに起因しないほかの要因を解決すべきという意見は傾聴に値する。

煩わしさを避けて失ったもの

ケータイは、便利さの象徴です。私たちの社会は、この数十年、煩わしさを避け、便利さを追い求めて変化してきました。
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煩わしさを避けた結果、子どもの居場所が失われたという問題もあります。地域の商店街が衰退し、郊外がクルマ社会化した問題を考えて見ましょう。
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クルマ社会は、大人には便利な社会です。煩わしい思いをしなくても、夜や休日に自家用車で買い物に出れば、必要なものがほとんど手に入ります。店の営業時間は長く、定休日も基本的にありません。
しかし、クルマ社会は、子どともには不便きわまりない社会です。クルマを運転できない子どもたちは、クルマ社会の恩恵をほとんど享受することができません。むしろ、徒歩や自転車で移動する際に、自動車がたくさん走る道を通らねばなりませんから、常に肩身の狭い思いをします。クルマでしか動けない地域社会というのは、子どもの参加を拒んでいる社会にも見えます。

異質な他者とかかわる力を育てる教育

ケータイに関する問題は、子どもたちの間の同調圧力と大いに関係しています。ケータイが少人数の仲間たちでひたすら同調しつづけるために使われていることが、子どもたちの抑うつ傾向やネットいじめといった問題と密接にかかわっていると考えられるのです。
逆に言えば、同調圧力を軽減させることができれば、ケータイに関する問題をある程度解決することができるはずです。これは学校での日常の教育実践で取り組むべきことです。
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かつては、子どもたちに多くの知識を習得してもらうことが非常に重要で、それゆえ効率よく一定の知識を授ける授業を行うことに必要性がありました。しかし、高度情報化社会となった今、子どもたちに多くの知識を習得させることよりも、情報を吟味して必要なものを選び出す能力や、多様な考え方をふまえてなんらかの結論を出す能力を培うことが重要となっています。学校の日常の授業が、互いの違いを活かす方向に変わることは、高度情報化社会となった時代の要請ともいえます。そのような取り組みがなければ、子どもたちは同調圧力を強めていくばかりで、ますます問題が深刻化してしまします。