*[本]サッカーという至福

ワールドカップは魅了する

フランス大会の前後に「ワールドカップは必ずしも世界最高レベルの大会ではない」という声が聞かれるようになった。・・・・・
この見方が説得力を持つのは、欧州のサッカー市場がEUの市場統合を引き金に激変したからである。市場統合はEU域内の選手を外国人枠にカウントしないこととし、さらに95年にEU委員会が下したいわゆる「ボスマン判決」(ベルギー人のジャン・マルク・ボスマンが移籍の自由を求め所属クラブに起こした裁判でボスマンが勝訴した)によって、契約期間が満了した選手は移籍金ゼロで自由にクラブを変えられるようになった。「労働者の移動の自由」がサッカー選手にも適用されたわけである。また、ニューメディア時代の到来はサッカーの試合を衛星放送のキラーコンテンツとし、巨額の放映権料は地域社会の公共財であったサッカークラブをビッグビジネスの舞台に変貌させた。
その結果、イタリアのセリエAイングランドプレミアリーグ、スペインリーグなどに豊富な資金力にモノを言わせた「ドリームチーム」がいくつも生まれた。酷税感のあるフランスでは選手が国外脱出を図り、市場で買われる側に回った。ワールドカップに出てくる代表チームには国籍という縛りがあるが、クラブチームには売りに出た選手を国境を越えてチョイスし”世界選抜”を編成することができる。ワールドカップ直前に合宿する代表チームと違ってクラブは日常的に練習をともにして戦術を練る。これではクラブの方が強く見えて当然だろう。